本を閉じた。

どうやら、調べれば調べるだけ駄目らしい。
所詮、「天才」と謳われようとも人は神ではない、といったところだろうか。
ベッドに身体を沈め眼鏡を取り、疲れた目頭を揉んだ。

「…………。」

見ているだけしか出来ない、自分なら。
いっそこの眼など――

眼球に指先が触れる直前、
「へぇっ、珍しいじゃん。
ジェイドが眼鏡外しているなんてさ」
斜め上からの間抜けな明るい声に思考が中断された。

「………ノック無しとは、いただけませんねぇ。」
「いや、したぞ?気づかなかったのか・・・・?」

…気づかなかった?
いや、一般人相手ならともかく相手が譜術士なら
その音素を感じ取ることは容易なはずだ。
「…そうみたいです。」

「どうか、したのか?」

気遣うようにこちらを覗いてくる。
なるべく気づかれないようにしながら、本の表紙を伏せた。
見ても、彼にはわからないだろうが、それでも少し調べれば内容が解るタイトルだ。

「いえ、なんでもありませんよ。」
「そっか、じゃぁ、行こうぜ。飯だってよ。」
催促されベッドから身体を起こす。
「おや、それではルークがより丸い体型になってしまいますねぇ。」
「どーいう意味だよッ!!」
「気に障りましたか?これは、すみません。」
笑いながら眼鏡をかけると、それまで彼の身体から曖昧に出ていた
第七音素の波動が ぷつり、と消えた。
以前の無駄に音素を放出していた彼の姿は、今は見る影も無い。

(あぁ、そうか。ここまで弱ってしまったのか。)



「さぁ、行くとしましょうか」







 おわり
終焉の見える物語など、読みたくはないのに。












inserted by FC2 system